大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)2823号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁論人国分友治の上告趣意は、結局事実誤認の主張に帰し、刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない(原判決の認定によれば、緑証制株式会社は、昭和二六年八月二一日城島実から神岡鉱業株式会社株式三〇〇株の買付委託を受け、同日及び同月二七日の二回に、買付委託手数料を含めた買付代金当て合計金五一、七五〇円を受取り、同証券会社は翌八月二八日福岡証券取引所市場において、右委託を受けた三〇〇株を含む同株式六〇〇株を買付け、その市場の受渡は同年九月一日行われ、したがって同証券会社が右市場より受渡を受けた六〇〇株のうちには、城島実よりの買付委託株三〇〇株を包含しておるものであり且つ城島実への受渡期日も既に到来したものであるところ、当時同証券会社は資金難から営業不振の状態にあったため、同社社長たる被告人は同日、被告人自ら又は少なくとも自社社員に命じ若しくは指示して右六〇〇株全部を擅に他に売却処分したものであるというのである。なるほど原判決には、横領罪の構成要件たる「他人の物」といい得るに至った点についての理論的の判示のうち稍々正確を欠くものがあるけれども、上示原判決の認定した如き本件事実関係のもとにおいては、これを業務上横領罪が成立するものとした原判決の結論は結局正当に帰する)。

その他記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴四一四条、三九六条一、八一条により裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例